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感謝を伝えられるのは、人生で3回しかない。
「心から、全身全霊のありがとうを伝えられるのは、人生で3回しかない。」
これ、誰に向けての話だと思いますか?
私が以前、某ブライダル企業のインターンに参加した時にこのフレーズを聞き、私は衝撃を受けました。実はこれは両親に対してなのです。
人生で3回というのは、「社会人になったとき」「結婚するとき」「死別するとき」という3回。
社会人になったとき、感謝を伝える儀式は自分で作らないといけないし、そういう明確な文化は日本にはない。
死別するときでは、もうすでに遅い可能性が高く、伝えても明確に伝わるかわからない。
では、結婚するときは?
結婚式という文化は昔から存在する上に、両親に手紙を読み、感謝を伝えるという儀式はほとんどの結婚式で導入されています。そして、両親の目の前で告げるので、伝わりやすい。
人生で3回しか感謝が伝えられない中で、結婚式を挙げる理由は、そこにあると私は思いました。
有賀さんのお話を聞きながら、インターンで話されたときの感情が蘇りました。
やはり、結婚式があることで、伝えられる数に限りある心からの感謝が伝えられるのだと。
そんな中で、有賀さんはおっしゃいました。
「相手のことを知らなくても、結婚式を作ることはできてしまう」と。
完璧な施工と進行であった結婚式。有賀さんはお客様のおっしゃったことに100%応えました。
その1か月後に、新郎のお母さまからの一本の電話がありました。
「有賀さんともっと仲良くすればよかった」とおっしゃっていたというのです。
人見知りで、要望はお母さまに代弁してもらっていたという新郎新婦。新郎さまは職業欄を空欄にしていました。
読んでいなかったアンケートには、新郎さまは趣味に「ピアノ、作曲」、新婦さまは幸せを感じる瞬間に「プロのピアニストになりたい彼を応援すること」を書いていました。
確かにお客様が「おっしゃっていた」要望にはすべて応えてました。ただ、新婦側の友人は何をしているのかわからない新郎にざわつくばかり。新郎側のご両親は肩身を狭そうにしていました。
もし、プロのピアニストになりたいという新郎が、ピアノを披露する機会を作ってあげれば、もっと良いものにできたかもしれない。新婦側のざわつきもなかったかもしれない。ご両親も肩身を狭そうにせず、ピアノを弾ける息子さんを誇らしく思ったのかもしれない。
お客様が「言いたいけれど言えない」心の奥に潜む感情に、その感情が外に出たカケラに、気づくことができなかったがゆえに、後悔をしてしまったというのです。
これは、まだプランナーになり、そこまで経っていない頃の有賀さんの挫折のお話。
私は胸を打たれました。
お客様に寄り添う、期待に応えるというのは、私も含め、プランナーになることを視野に入れている人たちにとっての常套句で、正直悪いものだとは思いませんでした。
しかし。
人生で3回しかない、親への感謝を伝える機会。
自分たちでわざわざ取ることのない、自分の心からの気持ちを伝える機会。
私たちプランナーが読み取らないと、相手の大切な1回を失ってしまうかもしれない。
私たちプランナーが読み取らないと、相手は自分に向けた愛に気づけないまま、人生を終えてしまうかもしれない。
きっと、有賀さんはそのことに気づき、挫折し、そのお母さまの電話を胸に秘めて、ブライダルに携わり続けているのだと思います。
日本人は基本恥ずかしがり屋な人種であり、自信が持てない人種です。
心の奥底にある愛を、感謝を、後悔を、伝えることを難しく感じてしまいます。
ただ、言葉にできなくても、表情や顔色、声色にそれは表れてきます。
どこかに「伝えたい想いのカケラ」を残しているのです。
伝える場面がたくさんある結婚式。
相手の心の奥底にある想いを、人生が終わるまでずっと眠らせないために。
「伝えられなかった」「伝えればよかった」という後悔を作らないために。
そのカケラに気づくこと、カケラからその人の心の温度を読み取ること、そして”秘めた想いを伝える正式な場である”結婚式にそれを落とし込む人が必要なのです。
だからこそ、ウェディングプランナーという存在がいるのでしょう。
心の温度を読み取ることは、正直簡単なことではないし、ずっと神経を研ぎ澄まし、アンテナを張っていなければならないので、疲れることには違いありません。
ただ、ブライダル業界を目指す私たちは、相手が秘めた想いを、秘めたままで終わらせないことが使命なのだと思います。
結婚式からはじまる人生を、もっと豊かにするために。
服部 涼香(はせぴ)